こんにちは。メブコです。
今回は、一穂ミチ先生の小説「キス」をご紹介してしていきたいと思います。
ちるちるのBLアワードにて「ベスト表紙デザイン賞」で入選しただけあり、2人の柔らかな空気感が漂ってくるような美しい表紙ですよね。
作者の一穂ミチ先生は、2024年に「ツミデミック」で直木賞を受賞された方です!
一般文芸、BLともに読者の心をつかんで離さない作品を多々生み出されています。
一穂先生の作品は、文体の美しさもさることながら、特筆すべきは「絵になる場面」が多いことだと思います。
読了後に「あのシーンが良かったの!!」と誰かに話したくなるような...
今回は、そんな一穂先生のBL小説「キス」をご紹介していきます。
あらすじ
本作は、幼馴染同士の長年にわたる恋物語です。
タイトルの「キス」が表すように、主人公たちの人生を決める重要な場面では、いつもキスがあるのです。
小学生から始まり、高校生、社会人となる主人公たちの姿が描かれています。
主人公の苑は、学校では同級生にからかわれ、自宅では実の両親からの罵倒・虐待を受けている小学生。
そんな苑に何故か構ってくる、裕福で愛情のある家庭で育ったクラスの人気者・明渡。
高校生になった明渡は苑に告白し、2人は付き合うことになります。
さらに社会人になった彼らは地元を離れ、共に暮らすように。
愛を知らずに育ってきた苑は、常に明渡の勢いに流されてきましたが、じきに自分の恋心に気がつきます。
そんな幸せの最中、明渡が頭痛により倒れてしまい…
というようなお話です。
明渡の体調の変化により、これまで順調に流れてきた物語は、急激に進行方向を変えることになるのですが...
こちらの詳しい内容については、後ほど「【ネタバレあり】好きな場面」の項にてお話ししていますので、気になる方はそちらにお進みください。
【ネタバレなし】印象的な台詞
特にネタバレにはならないため、印象的だった台詞をご紹介させてください。
明渡は苑の家庭環境が複雑なことを理解しており、そんな苑に対して「自分が守ってあげなければ」という思いがありました。
だから、定期的に苑の部屋を訪れては、苑に捕まえてきた昆虫を見せたり、外に連れ出そうとしたりします。
苑は明渡が捕まえてきた虫を見て、可哀そうだからもとに戻してくるように伝えます。
その時を振り返って明渡が発した言葉がこちら。
元いたとこが嫌いなやつだっているんじゃないかなって思ってた。虫だってさ。
引用:「キス」p.245
なんか、ハッとさせられましたね...
苑のような人にとっては、「もとの場所、仲間がいる場所に帰ること=幸せ」ではないんですよ。
それを子供ながらに感じていた明渡も、このような表現を生み出した一穂先生も素敵ですよね。
まぁ、明渡に関しては後ほど苑と読者を深く苦しめる言動をとってくるのですが...
それについては次項でお話しします。
【ネタバレあり】好きな場面 「苑がタクシーに乗り込むシーン」
突然ですが、私の最も好きな場面は「苑がタクシーに乗り込むシーン」です。
未読の方はなんのこっちゃだと思います。
※ここから先は特大ネタバレありです。
これまで引っ張ってきた「明渡の頭痛」について触れていますので...
この時点で「キス読んでみようかな~」と思っている方は、ここで引き返すことをオススメします。
「まだ購入するほどではないかな...」という方、既読の方に関してはこのままお進みください。
↓
明渡の頭痛
明渡の頭痛は、脳に出来た血腫が原因です。
この血腫は、小学生の頃、苑と一緒にいる時に頭をぶつけたことによって生じたものです。
この血腫による頭痛で、明渡は倒れてしまいます。
そして、この血腫を手術で取り除いた途端、明渡は「苑を好きな気持ち」が分からなくなってしまうのです...
具体的なメカニズムは不明ですが、その血腫により、脳の情動を司っている部分で異常が起きている状態だったということでしょうか...?
いわば、「苑に恋をするということが、脳にとっては異常な状態だった」というわけです。
いやぁ…恐ろしくないですか...?
記憶は完璧にあるんです。感情だけがすっかりと抜け落ちてしまうと。
ここまで育んできた愛が、一瞬にして無になるんですよ。
恋する気持ちって、いったいどこから来るんでしょうね。
苑がしんどいのは想像に容易いですが、明渡もまた苦しむんです。
自分の気持ちで苑を地元から連れてきてしまいましたし、何より彼らは養子縁組していました...
好きじゃないけど、「苑の人生の責任を取らなければいけない」と思っている状態なんですよね。
この時の明渡は、「苑が自分以外の人と親しげに話しているのを見て、”安堵”の表情を浮かべていた」と描写されています。
明渡のどこか打算的な姿を見て思わず、「人間臭い!!!」と叫んでしまいました。
タクシーに乗り込むまで
長々と語っていますが、冒頭でお話しした「苑がタクシーに乗り込むシーン」の説明をしていきますね。
彼らは手術前、オペ室の前で看護師さんに「5秒だけ待って!!」と言って、キスをします。
そして手術後、明渡に今までのような気持ちがないことを悟った苑は、明渡と別れることを決意します。
退院日、2人は市役所を訪れて養子縁組を解消し、そのまま別れることに。
この別れの場面で、苑は「手術の日と同じようにしても良い?」と尋ねます。
それを聞いて、キスを待つように目をつぶる明渡。
1秒、2秒…と数える明渡を背に、苑は歩き出し、タクシーに乗り込みます。
キスはしていません。苑の最後の姿を明渡は見ていません。
以上が「苑がタクシーに乗り込むシーン」でした。
私の説明では伝わらないかもしれませんが、一穂先生の描かれたこの場面は、強烈に虚しく、それでいて美しかったのです。
分かれた2人がその後どうなるのかは、ぜひご自身の目で確認してみてください。
【おわりに】続編があります!
いかがだったでしょうか?
少しでも「キス」に興味をもっていただけていたら嬉しいです。
ちなみに、本作には続編の「ラブ キス(2) (ディアプラス文庫)」があります。
「キス」だけでも十分すぎるほど面白いのですが、「ラブ」まで読むとより一層感動できるはずです。
あまり分厚い本ではないのですが、読了後の満足感は言葉にし難いほど素晴らしいですよ!!
気になった方はぜひ読んでみてくださいね!!
